ご挨拶
皆様には一年後の開催に向けて、引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
第16回日本子ども虐待医学会 学術集会の大会長を拝命いたしました、社会医療法人聖ルチア会 聖ルチア病院精神科の神薗淳司と申します。開催まで約一年となり、実りある学術集会となるよう鋭意準備を進めております。
本学会は第1回から第3回まで、北九州市で研究会として始まりました。私自身、当時の大会長の故市川光太郎元理事長(北九州市立八幡病院名誉院長)に師事しておりました。以後、福岡県での開催は現理事長の小川厚先生が大会長を務められた第8回以来、実に8年ぶり5回目となります。再びこの地に集い、皆さまと最新の知見を共有できることを大変嬉しく思います。
第16回大会は、2025年8月22日から24日まで福岡国際会議場で開催を予定しております。テーマは「未来の子ども虐待医学:VUCA時代における治療的介入の工夫と手順」といたしました。過去15回の学術集会を振り返り、常に進化し続ける医療環境の中で子ども虐待への対応策を模索していきたいと思います。
テーマとして取り上げたVUCAは、1980年代末から1990年代初頭にかけて、米国が冷戦後の新たな世界情勢を説明するために使い始めた言葉です。この用語は「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ったもので、急速に変化し、不確実で、複雑かつ曖昧な現代の状況を表しています。この概念は2000年代初頭からビジネスや経営の分野で広く用いられるようになり、2010年代中頃からは医療や医学においても、急速に変化する医療環境や新たな病態の理解、複雑な患者のニーズに対応するために重要視されるようになりました。
このようなVUCA環境下で、子ども虐待医学も新たな課題を見出し対応策を模索し続けなければなりません。VUCAの視点から子ども虐待への対応を再評価し工夫を取り入れることで、より効果的な治療的介入を目指せます。変動しやすい状況や複雑な問題に対処し、不確実な将来に備えるためには多職種連携や最新の技術、エビデンスに基づくアプローチが不可欠です。
一方で、虐待対応には柔軟な対応能力や結論を急がない姿勢、そしてネガティブケイパビリティ(不確実な状況を耐え忍ぶ能力)が求められます。虐待を受けた子どもやその家族に対して、「今日より明日、少しでも良くなりたい」という希望を育み、家族全体の認知や思考の変化に伴走できる医療体制を確立することが、未来の子ども虐待医学に求められています。
現在、特別講演や基調講演を始め、教育講演、シンポジウムの企画を進めております。また、病院ソーシャルワーカーの役割や訪問医療を含めた看護職の役割、子ども虐待医学の専門医制度を考えるシンポジウムも企画しています。実践的な治療的介入の工夫と手順のみならず、効果的な姿勢やマインドについても深く議論する機会を設ける予定です。
参加者の皆さまには、本学術集会を通じて日々の臨床や研究活動に役立てていただけることを期待しています。さらに新たな協力関係を築き、子ども虐待の支援と防止に向けた一層の前進となることを願っています。
残暑が厳しい時期の開催となりますが、福岡の豊かな食文化も楽しんでいただければと思います。本学術集会の成功に向けて、皆さまのご協力を心よりお願い申し上げます。
2024年8月吉日
第16回日本子ども虐待医学会学術集会
大会長 神薗淳司
社会医療法人聖ルチア会 聖ルチア病院 精神科
日本子ども虐待医学会 副理事長